上森祥平 Shohei Uwamori

ソロ・室内楽・オーケストラ・教育活動を通して数多くの生徒を輩出する等、あらゆる分野で活躍するチェリスト。日本音楽コンクール優勝後、渡独。ヴォルフガング・ベッチャー氏のクラスで学び、国家演奏家資格を得てベルリン芸術大学を卒業。バッハ無伴奏チェロ組曲とルネサンスから21世紀作品まで多様な無伴奏作品を組み合わせた全曲公演は開催10年を経て、バッハ×ブリテン無伴奏チェロ組曲全曲公演へプログラムを拡大。毎年各方面から絶賛を受け続けている。ラ・フォル・ジュルネ“熱狂の日”音楽祭、東京・春・音楽祭をはじめ、NHK・BS・FM他出演多数。小林研一郎、下野竜也等各氏の指揮のもと、東京交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団等と共演。活動が評価され第14回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。10年を超える東京藝術大学での教鞭を経て、現在京都市立芸術大学准教授、神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席チェロ奏者。京都市文化芸術特別奨励者。京都府文化賞奨励賞受賞。

批評

上森祥平×J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会 2013 《 ガンボの魂 》

バッハ「無伴奏チェロ組曲」全6曲を1日で弾くだけでも至難なのに、上森祥平は各曲にリンクさせた別作曲家の無伴奏小品を全てに添えて、2部構成、1日にして12曲を暗譜で弾き切った。この企画は今年ですでに6回目。上森のパワーは桁外れである。凄まじい集中力だ。だが、悲愴感はなく、前向きで陽性のオーラを感じられるのが嬉しい。それぞれ、バッハと意味づけのある小品選択の企画力、バッハの「第5番」、「第6番」等に発揮された高い技術、ハイポジションの輝かしい音と正確な音程、各曲のムラのない演奏レヴェル、G・クラムの「無伴奏チェロソナタ第2楽章」に聴かれた澄んだ高音、ソッリマ《アローン》にみられた種々のボウイング技術など、まさにプロの面目躍如である。アンコー ルにガンバの武澤秀平と夫人でチェロの福富祥子が共演。ガンバとの本格的協演に期待!

-音楽の友- 2013年10月号-

上森祥平×J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会 2012 《 これでいいのだ 》

豊かな旅路の高度な充実。2部構成で弾ききる「上森祥平×バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会」は今年で5年目、バッハ作品の前に書かれた時代も場所も異なる作品を添えて響き合いが互いを深める好企画だ。番号順にバッハを弾いた今年は併演曲を過去の公演から選りすぐり、全体構成も演奏も秀逸。1曲ごとの磨かれた世界観に卓抜安定の技巧から生き生きと自然な歌が心地よく流れ、舞踊の自在と形の美しさを生かすバッハ。決然と、しかし自由な表現は見事だが、その先導を成す多彩な作品との呼応がまた時の濃さを倍増させ素晴らしい。楽章順を変えバッハとの関連を示唆して効果的なサーリアホ、同時代人マレとの対話、鋭く饒舌なライマン、ひりひりと鋭敏なストロッパ、カーターの自在……難技巧 が豊饒を切り拓く高い緊張感。最後のオコーナー《アパラチア・ワルツ》~第6番での心地よい疲れもまた自然にきこえた。

-音楽の友- 2012年11月号-

上森祥平×J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会 2011《 鳥の歌 》

バッハ「無伴奏チェロ組曲全曲」全6曲の2部連続演奏会ではあるが、各曲の前に連鎖性のある小品を導入曲風に演奏し、バッハへの耳を開くというのが上森祥平流。今回は歌をテーマとして、第2番にはダウランド《涙》、第5番にはシュニトケ《オレグ・カガン追悼のマドリガル》、第3番にはカタルーニャ民謡《鳥の歌》、第1番にはコリリアーノ《ファンシー・オン・バッハ・アリア》、第4番にはイベール《ギルラツァーナ》、第6番にはハーヴェイ《大地の曲線》が組み合わされた。いずれもなるほどと思わせるカップリング。中でもシュニトケ&第5番、ハーヴェイ&第6番が傑出。上森の演奏を特徴づけるのは情に溢れた強い表現希求と、その情に品格を添える深い解釈と高い技術であろう。バッハ の各舞曲はキャラクター性が明快。すべての音に命が宿り、民謡も特殊奏法を駆使した現代作品も違和感なくバッハと馴染む。名手を得てバッハの普遍性ここにきわまった

-音楽の友- 2011年10月号-

岡崎・上森・田辺のピアノ三重奏-それぞれ個性発揮し白熱

春の音楽祭「東京のオペラの森」の室内楽コンサートに、見るからに斬新なピアノ三重奏が登場した(5日、上野・旧東京音楽学校奏楽室。)ヴァイオリンが05年ミュンヘン国際コンクールの覇者、岡崎慶輔。チェロは97年日本音コン第1位の上森祥平。そしてピアノに、卓越したソロの実績に加え、室内楽にも進境著しい田辺京子を配したトリオである。前半にはモーツァルトのピアノ三重奏曲第1番が演奏されたが、結果としてこれはほんの前座という印象。なるほど曲は申し分なく魅力的だし、3人のすがすがしい呼吸が、その典雅な美しさを香り高く歌い上げる。・・・それに対して後半、今年のテーマ作曲家チャイコフスキーの「偉大なる芸術家の思い出に」では、一転してピアノ・トリオならではの白熱したシーンが展開した。しかもとかくごってりした表現に傾きがちなこの超大作を前に、終始引き締まった重奏を達成しつつ、そこに悲哀の色を美しく浮かび上がらせた点がすばらしい。いわゆるコンクール荒らしのイメージにはほど遠い情感豊かな音楽性に加え、若々しい積極性も兼ね備えたヴァイオリンと、剛毅(ごうき)で線の太いチェロがうまく噛(か)み合い、さらに盤石のピアノがアンサンブルを隙(すき)なく束ねるなど、それぞれが遺憾なく個性を発揮した。・・・

-毎日新聞 2008年4月14日 東京夕刊-

J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲 第4回 上森祥平

チェリストたちが日替わりでバッハの無伴奏に挑む企画の第4回。
上森は水際立った腕の冴えだが、それを決してひけらかさず、ずしりと手応えのあるモノローグを広げる。
前半と後半の最初にバッハと異なる時代の作品で露払い。これで時代の空気と、バッハの独創性が対照される。シェンクのアダージョの旋律作法が沈黙の余韻を残すなか、バッハの無伴奏第1。鮮やかに歌うのだ。次の第5とともに、楽句の連結点が円滑で一瞬の停滞も無い。時代様式を意識した奏法ながら、それが普段着のように自然。D・ガブリエッリの第5リチェルカーレでも、乱雑に投げ出された素材を非凡な集中で束ねてゆく手腕は見事だ。バッハの3番では切れ味のよさが光り、なんとなくの音は一音も無い。舞踏と歌が渾然一体となる華やぎと、内へと向かう思索の深さが共存して、むしろ詩的なまでの音空間を造り出していく。その奥行きは無類。

-音楽の友- 2004年6月号-